読書感想文

タイトル通り読書の感想です

日本近代短篇小説集3 岩波文庫 帝国陸軍に於ける学習・序

三人称神視点である。
論文ではないので、視点は神視点なのである。
勤務先の役所での昼休の軍事教練である。
たちまち一個の数に抽象され、人間の安物に具体化される。教練を受ける方は三等兵に他ならない。
軍隊にひっぱられてやっと二等兵になる代物である。
例え上等兵位であってもその命令は三等兵の前では朕の命令である。朕の命令がいかに垂直に人間関係を貫き通すものかを手痛く我々は知らされる。
とにかく長ろつく奴の命令は朕の命令にほぼちかくなってきていた。
いつ召集が来ても不思議ないというような感じ、つまりはあきらめが何となく出来上がりそうなのである。
聖戦の聖がどうにも判らないからであるが、判らんと悪いような気もしないではない。
これはもうアカン、聖戦も判り、鬼畜米英も判り、日本精神も判る気にならんとアカンぞと腹の底から震え上り、その癖、憲兵が憎くてかなわないのである。
一人の人間の力ではどうにもならん。それまでせいぜい酒をのんで気楽にしているよ。その点あんたなんかと違って医者は特権階級だからね。
わたしのやり方に不平のある人は出て来い、雌雄を決しよう、と彼は言った。
役所と資本家とのなれ合いで徴用工が製造されるのである。
やって来たのは教育召集令状であった。やれやれやって来たぞ、徴用よりましじゃわいと一応満足であった。
落ち着くべきところへ落ち着いたのだ。ところがそうではなかった。
つまり三十代四十代の初年兵を、二十代初めの古兵連中の私的制裁にさらすわけにはゆかないのである。
正しくわれわれはタルンでいた。入営する前からタルンでいた。
何も連隊ですべての訓練をすませなくてもいいではないか。野戦にゆけば否応なしにあんな所ぐらい渡るようになる。准尉はこの連中の召集が早く解除になって帰ってしまってくれたら良いと思う。
わたしはわざわざ将校の資格で忠孝をやらなければならぬ理由がなく、やりたくない理由ならザクザクあった。
そして一日一日がそのように流れて行って一生がたってしまう。その後には不忠も不孝もないだろう。
野戦行きに編成されることがどうして強迫になるのか一向に判りはしていなかったのだ。
っこういうお前たち不届きな兵隊は第一線に出て行くがよい。
何という私意による編成、懲罰的編成であろう。困っている者が損なくじを引く。それが運命をいうものだ。
懲罰流罪的第一線出征の発想にわたしは全く口あんぐりであった。